2017年10月23日 設計事務所 【文化財修理】修理における2つの大原則
前回は文化財修理の現場や報告書に使用される独特な「言葉」をご説明いたしました。今回は、実際に文化財の修理を行う際に大切なことを詳しくお伝えしていきます。
1) 当初材を大切にする
基本的に文化財修理は、当初材をできるだけそのままの状態で残すことを目指して修理します。当初材とは、その文化財建築において建設当初から使われていた材料のことです。
(1) 当初材が劣化している場合の修理方法
当初材のうち、柱は、ほぼ根元が劣化しておりますので、根元の部分のみ取り替える「根継(ねつぎ)」という方法で修理します。
柱に対して梁などは劣化部分を取り除き、「接木(はぎき)」という方法で修理します。
(2) 新しい材料は少し「ふかす(出っぱらせる)」
どちらにも共通して大切なことは、「根継」「接木」ともに、新しく加えた材料を当初材より少し「ふかす」ということです。
約10年間で木材は道管部分が縮んで全体的に収縮します。
ここでいう収縮は乾燥に伴う乾燥収縮とは少し違いますのでご注意ください。
もし、「ふかす」ことを行っていないと、経年変化により当初材よりやせてしまいます。
特に柱の場合ですと根元に新しい木材を据えるため、直径の細いもので直径の太いものを支えないといけなくなってしまいます。
(3)新しい材料を「ふかす」目安
では、どのくらい「ふかす」のが良いかというと、「根継」の場合3mmほど、「接木」の場合1〜2mmほどです。
段差を嫌ってカンナがけしようとする職人さんがいらっしゃいますので、当初材には決してカンナをかけないよう、上記の理由を含めてあらかじめ伝達しておくと大切な文化財を保護することにつながります。
2) 修理はすべて可逆性があるようにする
文化財の修理はすべて「可逆性」がないといけません。もし今は良いと思って行った修理が、何年も経つと問題が見つかる場合があります。
その際に、元の姿に戻すことができないとその材料をすべて新しいものに変えないといけなくなります。
(1) 使ってはいけない材料
昭和50年代からよく使われていた材料に「エポキシ樹脂」があります。当時は木材の劣化部分に注入するだけで強度がでるため、画期的な材料として重宝されましたが、実際は紫外線にあたると10年で劣化することが報告されています。
具体的には、色が赤茶色に変色し、強度が全くなくなります。接着剤の中では唯一「木工用ボンド」のみ可逆性があるため使用可能です。
以上、文化財の修理において大切にされていることをご紹介しました。これらを踏まえてより良い状態で文化財が修理・活用されますよう、実務にお役立いただければと思います。